ある時、膝が痛いので操体の治療をしてほしいという方が来られました。
聞けば、大学時代に空手部の主将をしていて、ずいぶん無理をされていたそうです。
この方が来られた当時(15~20年位前)は、患部(膝)を中心に運動分析をして、患部(膝)を中心とした操体の治療をして、それで“良し”と思っていた頃のことです。
もちろん全身の操体はしていましたが、まだまだ意識の中心は“患部”にあり、“治療法”にありました。
その頃の私の中での変化は、《してあげる操体》から、《させていただく操体》に変わった時期ではなかったかなと思います。
まだまだ“治療”としての操体法だったんです。
その操体の治療をさせていただきながら、操体のやり方などについて、患者さんといろいろな話をしていました。
何回目かに来られた時のことです。
「先生! 道路の右側を歩くと痛みますが、左側を歩くと痛くないのは、何故でしょうね?」と言われるんです。
その時は、とっさに答えが思い浮かばず、「なぜでしょうねぇ」と受け流していました。
ちょうどその頃、子どもが小さかったものですから、妻が子供を乳母車に乗せて帰ってきたことがありました。 「あぁ しんどかった!」と・・・
妻にその患者さんの事を話したら、1も2も無く「それゃ、舗装が悪いからや!」と返されたんです。
そして一言。「この乳母車を押して、ここを歩いてみ!」と言って、乳母車を渡されました。
最初は、何を言わんとしているのかさえ分かりませんでした。
でもね、ほんの数メートルも押さないうちに、すぐに理解できました。
だってね、私は真っすぐに押しているつもりなんですが、乳母車の先が左へ左へと向いて下がってくるんです。
乳母車の先を、車道の方に向けながら押さないと、側溝の方にどんどんずり落ちてくるんです。
しかも、手に結構強い力を入れて、足もふんばりながらでないと、側溝にずり落ちてくるんです。
道路ってね、歪んでいるんですよ。
車道は平たんなんですけど・・・
でもね、歩道は側溝に向けて結構傾いているんです。
つまり、道路の右側を歩くとね、足の裏も右側に傾斜して、“膝の外側に伸びる力がかかる”って言うことが分かったんです。
それも“実感”を持ってね。
歩く場所の問題と自分の膝の関係も、“快(適)”、“不快(不適)”として感知されていたんですね。
歩き方にも、操体が役立つんです!
そう言えば、橋本敬三先生は「生き方の自然法則ってものが歴然とある!」と言っておられましたね、
と言うことは、「自然法則に適った生き方」が、私達人間が追及すべき課題なんでしょうね。
その“自然法則”は、「からだの外の自然」だけでなく、「からだの中の自然」にも歴然と在るんですから・・・
からだって、本当にすごい!
歩き方だけではなく、歩くところも、履物も、手の振り方も、“全てが操体”なんだ!
“操体三昧”
操体 バンザイ!
北村翰男
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